スペキュラティブデザインとは?デザイン思考との違いと事業アイデアへの活かし方

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スペキュラティブデザインとは?

スペキュラティブデザイン(Speculative Design)とは、「未来はこうもありえるのではないか?」という問いを投げかけ、議論を生み出すデザインの方法論です。英語の「speculate」は「思索する・推測する」という意味。未来を予測するのではなく、未来について考えさせることに本質があります。

2013年、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)の教授アンソニー・ダンとフィオナ・レイビーが著書『Speculative Everything』で体系化しました。アメリカとイギリスで同時期に立ち上がったこの思考法は、デザイン思考が主流だった時代に「0→1は別の頭の使い方が要る」という強烈なカウンターとして登場しています。

デザイン思考の限界──改善はできるが、発明はできない

デザイン思考はユーザーのニーズを確認し、プロトタイプとテストを繰り返して改善していく強力なフレームワークです。ただし、個々人へのニーズ確認から始まる以上、出てくるのはどうしても「改善」であり「発明」ではない。1→10は得意だけれど、0→1には使えない。ここにデザイン思考の構造的な限界があります。

デザイン思考 スペキュラティブデザイン
目的 課題を解決する 課題を提起する
起点 ユーザーの困りごと 「もしこうだったら?」という問い
時間軸 現在〜近い未来 中長期の未来の可能性
得意なフェーズ 1→10の改善 0→1の発想

スペキュラティブデザインは主観と客観を行き来しながら「ありえるかもしれない未来」を描き出し、そこから議論やアクションを引き出します。問題を解決するのではなく、問題そのものを発見・創造する思考法です。

「What if」を出せるかどうかが、経営者の資質

スペキュラティブデザインの出発点は「What if(もしこうだったら?)」という問いです。

提唱者のアンソニー・ダンは4つの未来の捉え方を示しています。

未来の分類 英語 意味
起こりそうな未来 Probable 現在の延長線上で予測される未来
起こってもおかしくない未来 Plausible 十分にあり得る範囲の未来
起こりうる未来 Possible 科学的に不可能ではない未来
望ましい未来 Preferable 私たちが目指したい未来

ほとんどの事業計画やマーケティング戦略は「起こりそうな未来(Probable)」をベースに組み立てられています。でも、それだけでは既存の延長線上のアイデアしか出てこない。「起こってもおかしくない未来」「起こりうる未来」にまで視野を広げて初めて、まだ誰も言語化していない問いが見えてきます。

このWhat ifを出し続けられるかどうかが、経営者としての資質だと思います。What ifは議論を巻き起こし、議論がアクションを生み、アクションが事業を前に進めていく。逆に言えば、What ifが枯れた組織は止まります。

腹が立ったことがアイデアの源泉になる

では、What ifはどこから湧いてくるのか。

答えはシンプルで、「腹が立ったこと」です。不便、理不尽、非効率──日常の中でふと感じる苛立ちや違和感。そこには、まだ誰も手をつけていない課題が隠れています。きれいなフレームワークから出てくるのではなく、生々しい感情の中にアイデアの種がある。これはスペキュラティブデザインが重視する「当たり前を疑う」という姿勢そのものです。

実際、今あるテクノロジーの多くは、かつて誰かが「腹が立って」妄想したものの実現です。ドラえもんの「ほんやくコンニャク」はリアルタイム翻訳AIになり、こち亀で両さんが思いつきで作っていた珍発明はIoTデバイスとして商品化され、星新一のショートショートに描かれた監視社会やAIとの対話は現実のものになりました。スペキュラティブデザインという言葉が生まれるずっと前から、日本のマンガやSFは「What if」を大量に世の中に投げ続けていたわけです。そして、それを子ども時代に浴びるように読んだ世代が「昔見たあれ、本当に作れるんじゃないか?」と手を動かし始めている。フィクションの妄想が事業の起点になるのは、決して偶然ではありません。

任天堂の横井軍平氏が実践した「枯れた技術の水平思考」も同じ話です。最先端の技術を追いかけるのではなく、すでに広く普及した技術を別の文脈に転用する。ゲームボーイは当時すでに「枯れた」液晶技術を携帯ゲーム機に持ち込んだことで世界を変えました。新しい技術ではなく、「なぜこれをこう使わないんだ?」という怒りにも似た問いが出発点になっている。まさにWhat ifの実践です。

アイデアを事業にするための3つの軸

腹が立ったこと、違和感、What if──そこから生まれたアイデアを事業として形にするには、次の3つの軸で因数分解すると解像度が一気に上がります。

問い
ターゲット(確信したいこと) この仮説は本当に正しいのか?何を検証すべきか?
トレンド(世の中の潮流) いま何が動いているのか?どの波に乗るのか?
パッション(情熱を持っていること) 自分が夢中になれるか?怒りや違和感はどこにあるか?

大事なのは、因数分解した上で掛け合わせること。ターゲットだけ、トレンドだけ、パッションだけではぼやける。3つの要素をバラバラに分解してから掛け合わせたときに、「自分だからこそやる意味があり、世の中の流れにも乗っていて、検証すべき仮説も明確」というアイデアが見えてくる。3つの円が重なる場所にこそ、筋の良い事業の種があります。

Why meの限界と、その先にあるもの

起業や新規事業で「Why me(なぜ自分がやるのか)」はよく問われます。個人の原体験や使命感は確かに強い推進力になる。でも正直なところ、世の中の「もっとこうしたらいいのに」が減ってきている気がしませんか? その中で個人のWhy meだけを貫くと、マーケットとずれていくリスクがある。

スペキュラティブデザインの視点を持つと、Why meは「過去の体験」から「未来への問いかけ」に進化します。自分の怒りや違和感を起点にしつつ、What ifで視野を広げ、トレンドやターゲットと掛け合わせていく。この往復運動が、独りよがりではない、社会に刺さる事業アイデアを生み出す原動力になるはずです。

まとめ

スペキュラティブデザインは、きれいなフレームワークではありません。「未来はこうもありえるんじゃないか?」という問いを出し続け、議論を巻き起こし、アクションにつなげる思考の構えです。

日常の中で腹が立ったこと、違和感を覚えたこと。それをスルーせずにWhat ifで問い直す。そしてターゲット・トレンド・パッションの3軸で因数分解して掛け合わせる。まだ世の中にないものを形にしたいなら、この思考法は間違いなく武器になります。

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